リアルタイム震度、計測震度、SI値、最大加速度PGAおよび5HzPGA

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2011.4.18SDR、4.19修正 SDR



リアルタイム震度、計測震度、SI値、最大加速度PGAおよび5HzPGAについて

<参考: 中村(2007)、地震動指標間および被害との関係、日本地震工学会論文集7巻2号>


AcCo-100を始めとするSDR社の警報地震計は、リアルタイム震度と5HzPGAを表示し、これらの値が警報規準値を超えた瞬間に警報できる機能を備えています。

リアルタイム震度はSDR社独自の地震動指標(特許)ですが、計測震度と異なり、物理的な背景をもっており、リアルタイムに算定できるという特徴をもっています。地震動のパワー(加速度ベクトルと速度ベクトルの内積で算定される単位質量あたりのパワー)を基本として、その対数に一定の数値を加えたものがリアルタイム震度の定義です。物理的な背景を持つと言うことは、さまざまな物理量との関係が明確で、物理的、数学的に検討することができるということです。リアルタイム震度の値は、地震動(P波)が到来すると急速に増大してある値に達した後ほぼ一定値を保ち、S波到来とともに再び増大して最大値に達した後次第に減衰していきます。その最大値は計測震度とほぼ一致します。

最大加速度(PGA)は被害との相関があるとされ、今日に至っても警報指標としてよく使われています。しかし、近年の計測技術の向上により、高い周波数成分までも計測できるようになったため、計測される加速度波形をそのまま使って算定した最大加速度はいたずらに大きな値となり、被害との関連性が認められなくなっています。そこで、旧国鉄では1985年に警報用の最大加速度は5Hzまでの加速度波形を使って算定することとしています。これが5HzPGAで、現在はJRや東京メトロなどに引き継がれています。5HzPGAは、PGAとは異なり、被害との関連性もある程度保たれており、警報指標として有効です。

計測震度は、以前の体感によりきめていた震度を、違和感がないように客観的に器械計測できるようにしたもので、具体的な算定方法が気象庁告示4号(1996年)に示されています。計測された加速度波形データに解析処理を施し、地震終了後に確定結果が算出されるものですが、人工的な処理であることと地震後にしか算定できないという欠点があります。

構造物の被害と相関する指標とされているものに、平均速度応答スペクトルSI値があります。これは、周期0.1秒〜2.5秒で減衰定数が20%の振り子群を当該地震動で加振したときの各周期振り子の最大速度応答値を平均したもので、定義上は地震が終了した後でしか算定することはできません。現時点までの最大速度応答値を平均してSI値を便宜的にリアルタイム算定する方法も提案され、東京ガスなどで使用されていますが、あくまでも便宜的なものにすぎません。地震終了後に確定するSI値は、地震被害と相関性が高いとされる指標ですが、物理的な意味が複雑で、加速度や速度など他の物理量との関係を理解するのは困難です。対象とする構造物群の固有振動数と減衰定数(いずれも、初期値とするか、被災後を考慮するかは検討の余地がありますが)で応答を算定して平均値を求めるのであれば合理的であると考えられます。しかし、定義式によると、固有周期は高層ビルなどのやや長周期から配管系などの短周期まで幅広いものとなっています。減衰定数20%も構造物としては被災後を考えたとしても大きすぎ、SI値を地震動の指標とするのならばともかく、構造物の被災程度を推測するための指標とするのはやや疑問です。

地震動の大きさは地下施設の被災程度に直結すると考えられるため、東京ガスがSI値を算定するための固有周期群を設定した上で、地下ガス管路網の被災判定に用いるのは合理性があります。しかし、JR東日本が新幹線構造物などの地上構造物の被災程度を推定するために、東京ガスの指標をそのまま用いているのは理解に苦しみます。指標として採用する時に誤解があったとしか思われません。

2003年の三陸南地震での新幹線高架橋被害は5HzPGAよりもSI値と高い相関を示す、という相関図が公表されています。そして、おそらく、これがJR東日本管内の新幹線の運転規制基準(運転停止した後の再開を判断するための基準)にSI値を採用した直接の動機になっているものと思われます。しかし、これはSI値の算定ミスにより生じた見かけの現象です。正しい計算結果に基づけば、被害との高い相関性は失われてしまい、被災した原因は単に当該構造物の耐震性の不足であったことが推測されます。2005年に千葉で発生した震度5の地震の際には首都圏のJRが長時間大混乱しましたが、この混乱の後にSI値の算定ミスが確認されたと言われています。

一般に地震被害をひとつの量だけで的確に表現することは不可能で、地震力に関係する加速度や、地震エネルギーに関係する速度、地震動パワーに基づくリアルタイム震度など、いくつかの指標を組み合わせて地震被害を推定するのが合理的です。

統計的な検討によれば、リアルタイム震度の最大値(RI値)、気象庁の計測震度およびSI値の3者は相互に相関性が高く、相関係数は概ね0.99を越えています。つまり、統計的には、これらは同等のものと考えることができます。これらの量を同時に考慮しても意味がないということになります。これらの内ひとつと別の指標、加速度や速度などを組み合わせるのが妥当です。

このような考えに基づき、SDR社の地震警報機器群は、リアルタイム震度と最大加速度5HzPGAを同時に表示・監視して、迅速で的確な警報発令を実現しています。

以上


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