ご報告

2008.7.29 SDR


緊急地震速報は本当に役に立つのか?


中村 豊
(株)システムアンドデータリサーチ代表
東京工大大学院総理工連携教授



 何度誤報を発しても、震央地域では間に合わないことが判っても、緊急地震速報が防災用として使うことが奨励され続けるのは理解できない。まるで不可侵の情報のようだ。警報が間に合わないだけではなく、自分のところの震度は予測震度でしかなく地震後の対応にも使えない。

 2008年7月25日(金曜日)の朝日新聞には、岩手・宮城内陸地震の際に緊急地震速報が有効だった例が示されている。それは、白石中学校の例や、仙台、石巻および大崎市の5箇所の幼稚園や保育所で、退避後に大きな揺れになったというものである。

 図は、強震記録を用いたフレックルによるオンサイトP波警報などをシミュレートしたもので、緊急地震速報の警報発信時なども記入している。これによると、今回の地震で大きな被害が認められた半径25km以内では、緊急地震速報は揺れに先行して警報を発することはできず、その2倍程度の震央距離までは、フレックルのオンサイトP波警報に先行することはできない。それより震央距離が遠いところから緊急地震速報の方が早くなる。

 一方、フレックルによるオンサイトP波警報は、震央付近でさえ、主要動の始まりまでに数秒の余裕時間を稼ぎ出し、震央距離50kmまでの被害域では概ね5秒程度の余裕時間となっている。それから次第に余裕時間は増大し、震央距離100kmでは10秒以上の余裕時間となっている。震央付近であっても、フレックルによるオンサイトP波警報で確保される余裕時間で机の下に潜り込むことは可能なのではないだろうか。

 白石中学校では、フレックルによるオンサイトP波警報から大きく揺れ始めるまでには13秒程度の余裕時間が見込まれる。ところが、緊急地震速報を聞いてから揺れ始めるまでに10秒ほどの余裕があったとの朝日の記事によれば、震央距離114km程度でも、フレックルによるオンサイトP波警報の方が長い余裕時間を稼いでいることになる。総合的に判断して、緊急地震速報よりはフレックルによるオンサイトP波警報の方がはるかに役立つことが判るのである。しかも、フレックルによるオンサイトP波警報であれば、その場の正確な震度を揺れている最中でも把握することができ、不確かな予測震度ではなく、実測された震度に基づいて地震後直ちに的確な事業継続計画を立ち上げることができる。緊急地震速報は廉価であるとの思い込みがあるようであるが、機器費、設置工事費、毎月の情報料などが必要となり、平均的に10年以上も情報量を払い続けても役立つ機会があるかどうかわからないのである。累積の経費は馬鹿にならない上、その時には通信異常で情報を受信できない可能性も少なくない。一方、自前の警報器は初期設備費だけで確実な警報が約束される。しかも、警報に到らないような地震でも波形記録がとれるのでどのような地震であったのかを定量的に把握することができる。防災研究や教育効果も期待できるのである。特に、最近、開発されたP波警報機器AcCo-PS(アッコピーエス)は、世界最速のP波警報機能を受け継ぎ、さまざまな機能を有するにもかかわらず、導入しやすい価格のリアルタイム地震防災システムとして普及が期待される。

 本当に役立つ早期P波警報システムの構築をお考えなら、アッコピーエスや実績あるフレックルを使ったシステム構築をお勧めする。

図 フレックルによるオンサイトP波警報のシミュレーション結果(2008年岩手・宮城内陸地震)


以上



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