ご報告

2007.4.9 SDR
2007.4.24 加筆・訂正
2007.5.21 図面付加


最近の能登半島地震(20070325)に際して感じたこと


(株)システムアンドデータリサーチ
中村 豊


2007年3月25日能登半島地震に際して感じたことを、思い出すままにメモしてみました。
能登半島地震に関連して、その後の報道などから得た情報や、必要と思われる補足説明などを補遺として付け加えました(2007.4.24)。瓦屋根に関して情報をいただいたので補遺に記しています。


目次

1.震源情報
2.緊急地震速報
3.震災報道、特に震直後の報道に関して
4.瓦屋根
5.家屋の倒壊
6.強震動の映像記録
7.最大加速度
8.上越新幹線の運行停止

補遺
*1.震央と被害範囲の関係
*2.余震情報
*3.家屋の倒壊と避難
*4.瓦屋根−ガイドライン工法
*5.地震動増幅と継続時間




1.震源情報

 震源位置の気象庁公表値が、地震後数時間を経て大きく変わったようだがなぜか?震源情報は、被害範囲の特定に関わる重要な情報であるので、震後直ちに正確な数値が公表されるようにする必要があるのではないか。緊急地震速報より重要な情報であることを認識して、間違っていれば速やかに修正してほしい。
 NHKなどで最初の数時間に報道された震源位置や地震規模は緊急地震速報の最終結果と同じようだが、緊急地震速報にひきずられて震源情報が間違っていたとすると問題である。震源位置と地震規模は防災上重要な情報であるから、今後の防災情報のあり方を考える上でも、なぜ震源位置を大きく間違えてしまったのか、調査の上、公表してほしい。
 今回は誤った震源が海域にあったので、影響は少なかったが、これが陸域であったなら、混乱したのではないかと危惧される。
 現在では、遅くとも、地震後1−2分で正確な震源と地震規模を把握する事ができるのではないか。防災のためには、少なくとも現在の緊急地震速報のような不確かな予測値より地震後の正確な震源情報の方がはるかに重要である。


◎当初公表された震央(M7.1、h50km)      ◎是正された震央(M6.9、h11km)
<NHKニュース映像。経験則による被害領域と被害甚大領域を大まかに黄円と赤円で加筆>


2.緊急地震速報

 緊急地震速報の発信状況をまとめたものが<速報版>として地震後すぐに公表されたようだ。これによると「主要動まで」になにがしかの猶予時間を稼いだらしい。ところが、発信状況は変わらないのに、数時間後に出た<暫定版>によると、被害が出た震源域では間に合わなかったとなっている。公表震源位置の変更とともに猶予時間が変わったようだが、公表された猶予時間は実際に情報を受け取った側での計測値、またはそれに準じる値ではないのか。震源の位置関係から算定される単なる期待値なのか?
 緊急地震速報の目的は大きな地震動の前にそれを伝達することではなく、速報情報を防災に役立てることにあるはずである。したがって、間に合った/間に合わなかったについて、期待値ではなく実状を調査した計測値を公表するのはもちろんであるが、それだけではなく、緊急地震速報に関係している行政機関、財団、NPO法人などは、どのようにして速報情報が防災に役立ったか、または役に立たなかったか、をきちんと調査・検証し、公表する責務があると思う。
 ちなみに、新潟県中越地震の際に確認された上越新幹線沿線のコンパクトユレダスの動きと新幹線脱線との関係からみた防災効果については、コンパクトユレダスの開発者として調査検討した結果を「地震ジャーナル」第41号などで公表している。ご高覧いただければ幸いである(弊社HPからダウンロードできる。強震再現実験映像が入ったCD-ROMには資料として掲載されている)。
 ところで、気象庁のいう「主要動まで」とはS波の始まりまでを指すのだろうか、それとも最大動発現時までを言うのだろうか。


◎地震後数時間で確保された猶予時間が変動:猶予時間は計測したものではないようだ。
<緊急地震速報第1報は、被害域が大きく揺れた後に発令、届くまでにはさらに時間を要す>

 なお、今回の地震で観測された強震記録によれば、普及し始めている弊社のP波警報機器FREQL(フレックル)によるオンサイト警報によれば、緊急地震速報が絶対に間に合わない震央地域でも大きく揺れる前に警報され、すばやく対応できる。震源から比較的離れた被災限界地域においても緊急地震速報と同程度以上の猶予時間が確保されている。



3.震災報道、特に震直後の報道に関して

 被害情報が集められていない段階での現地行政関係者への度重なるアクセスは拙速にすぎる。しかも情報が入っていない状態での被害状況を繰り返すことは、誤った震源位置の報道とも相俟って、被害が無かった、または、軽微であったとの誤解を招くのではないか。
 震源位置と地震規模をみれば、被害程度と被害範囲はある程度推測できるのだから、少なくとも初期段階では、気象庁の震源情報だけを鵜呑みにするのではなく、できるだけ正確な震源情報を入手するように努めるべきだろう。
 各報道機関は、気象庁の最新情報だけではなく、ほかの機関の情報、例えばUSGSの情報やHi-netの情報、各大学や地震研究所などの震源情報(公開されていないかも知れないが)を入手し比較する体制をつくってはどうか。少なくとも1km程度の精度ないし分解能の、正確な震源情報入手をめざしてほしい。
 地震は拡がりをもった断層の破壊現象であるが、その破壊開始点である震源の位置を正確に把握することは、地震直後の被害域特定にとって重要である。さらに、即時的に主要な破壊地点や断層破壊過程を把握することができるようになれば、防災上おおいに有効であろう。



4.瓦屋根

 先日、E-Defense で実大木造住宅の震動破壊実験を見学した。最終的には崩壊したが、瓦屋根がうねるように変形しても、瓦が飛び散ることなく整然と並んだままで、新鮮な印象を受けた。


◎実大振動破壊実験による家屋の倒壊        ◎能登半島地震による家屋被害例(報告会より)

 ところが、今回の地震被害を報道するTV映像に同じような光景を見出して驚いた。つまり、崩壊したにもかかわらず瓦には大きな異常がないものが多いように見受けられた。瓦屋根の強度については地域差が大きいようだ。震動台実験でみた瓦屋根は新しく開発されたものと聞いたが、地域によっては同様の機能を持った屋根瓦は既に存在していたということか。
 地域の特質であっても、防災に利用できるものならば全国に普及させるとよいのではないか。地震によって屋根からずり落ちてこない耐震的な瓦屋根は、上からの落下物を減らすことができ、地震時の災害を減少させる上で有効だろう。もちろん瓦を含めた屋根の重量を減少させることを忘れてはならないが。



5.家屋の倒壊

 今回の地震では、倒壊した住家が少なからずあったが、これによる犠牲者はいなかった。倒壊したのに犠牲者がなかったのはなぜなのかを調査すれば、家屋倒壊に対する効果的な防災対応策が見出せるかも知れない。
 ところで、先日(3月29日)、土木学会で能登半島地震の調査速報会があった。東京大学名誉教授の伯野先生はいつも意外な点を指摘されるので啓発される。倒壊と全壊は違うとのことで、前者は後者に含まれるらしいが、前者の統計数値はあまり公表されることが無いとの事、不思議なことだ。



6.強震動の映像記録

 最近、三次元振動台を使って、震度4〜震度7の強震動記録を再現する実験を行った。このとき、振動台にカラーボックスを二段重ねた上に固定したビデオカメラからみた振動台の映像は、震度6弱以上の強震動で、見た目以上に激しく上下に振動していた。
 能登半島地震を捉えたビル(NHK金沢?)の屋上のビデオカメラ映像は上下に激しく動くなど、上記の実験ビデオ映像と類似した雰囲気を持っており、少なからず驚いた。ビデオカメラの光軸が動くことによるみかけの上下動が主なものであろうが、建物の大きな水平動に随伴して現れる上下動の影響が意外に大きいことを示しているのかもしれない。
 強震時、超高層ビルなどでは大きな水平変位が発生することが懸念され、検討が始まっている。その際、随伴する上下動の影響を考慮する必要があるのではなかろうか。なお、強震動再現実験の報告やビデオ映像(約30分)は、2007年3月16日に土木学会で開かれた震度計に関するシンポジウムの講演概要集に付属するCD-ROMに収められている。(これらの資料を収めたCD-ROMは弊社HPから申し込んで入手することができる。)



7.最大加速度

 強震動再現実験報告の中では、計測される最大加速度についても議論している。
 今回の能登半島地震でも大きな最大加速度PGAが観測されている。ところが、地震後に報道される最大加速度は計測される上限振動数がまちまちで、相互に比較できるような値ではないことが多い。


◎最大加速度を報じた新聞記事の例(気象庁や防災科研、JRの観測結果が錯綜)

 いわゆる強震計(加速度計)の計測上限振動数は、高性能化とともに高くなる傾向にあり、これとともに計測されるPGAも大きくなっている。しかし、高い振動数では大きな加速度であっても、破壊には到らないことが多いなど、PGAは被害との関連性が希薄になっていることが指摘されて久しい。
 20年以上前の1985年、国鉄では、警報用地震計の警報特性として、計測上限振動数を5Hzに制限した。この地震計による最大加速度を5HzPGAと読んでいるが、PGAと較べると、半分以下になる場合も少なからず発生する。特に破壊力の小さな高い振動数が卓越する地震動の場合に、両者の相違は顕著になるようである。被害との関連性が希薄になる一方のPGAであるが、5HzPGAは被害との関連性をある程度保っている。
 今後は、被害との関連性の薄いPGAではなく、5HzPGAのように上限振動数を統一的に制限し、被害との関連性も保持している地震動指標値を報道すべきだろう。なお、5HzPGAは東京メトロなどに引き継がれている。



8.上越新幹線の運行停止

 能登半島地震の後、遠く離れた上越新幹線が数時間止まったままになっていた。地震直後、東京−新潟間全線で運行停止され、その後、運行停止範囲は越後湯沢−新潟間に狭まったものの、9時42分の地震発生に対して運転を再開したのは、確か12時過ぎで2時間半近く経ってからだったように記憶する。
 この地震による上越新幹線沿線の地震動は、K-NETなどの強震動記録によれば、震度3程度以下、大きくてもせいぜい震度4で大したことはなく、緊急停止の必要もない程度であったと推測される。公共輸送機関を運営するJR東日本としては、なぜ上越新幹線が長い間停止したままだったのかについて、きちんと説明してほしい。


◎能登半島地震の時の計測震度分布(防災科の観測データによる、SDRのHPより)

 2005年7月23日の地震や2006年2月1日の地震で発生した首都圏JR網の混乱は、沿線警報地震計のSI値算定ミスによる可能性が指摘されている(地震工学会論文集第7巻第2号「地震動指標間および被害との関係」)。未公表ながらSI値の算定ミスがあったことは事実らしい。能登半島地震の新幹線運行停止も同じ原因とすれば、今後も地震時の混乱が続くことになる。なお、上越新幹線では、新潟県中越地震で新幹線災害を未然に防止するなどの活躍実績をもつコンパクトユレダスは、すでに稼働していない。今回、新しく採用したシステムが動作したと思われるが、実際に公称どおりの機能を発揮しているのか等、その動作状況の詳細を公表して貰えないものだろうか。
 4月15日に発生した三重の地震でも、JRの運行停止に関して十分な説明が無かったようだが、少なくとも利用者にはできるだけ状況を説明した方が混乱防止にもなると思う。



補遺
*1.震央と被害範囲の関係

 陸域の地震では被害範囲の中に震央があり、被害範囲は震央を中心とした地震規模により規定される一定の円内に含まれる。この被害円は概ねM5.5以上で現れ、その時の半径は概ね5km、M6.0では12km、M7.0では50km、M8.0では250km、とおおまかに見積もられる(M−Δ図による被害推定)。ユレダスの早期警報(FREQLのユレダス機能も)は、このM−Δ図に基づいている。もちろん、地震の断層は拡がりを持っており、破壊開始点に過ぎない震央を中心にして被害範囲を考えるのは、断層が大きい場合には適切ではない。このような考え方ができるのは、せいぜいM7.5までであろう。


◎ M−Δ図上の鉄道構造物被害

 いずれにせよ、外部からの緊急の救援が必要となる地域は、M7クラス程度では震央地域に限られるのではなかろうか。これより遠いところでの被害は、軽微であるか、特殊で個別的なものであり、地域の人たちで対応可能と考えられる。つまり、M7程度では、二次災害を軽減するには正確な震央をいち早く通報することが重要となる。
 余震の発生状況も重要である。余震の揺れ情報も重要だが、それ以上に余震の震源分布がより重要な情報となる。本震後24時間の余震の震源分布は断層破壊領域にほぼ等しいと教わったが、余震発生は指数関数的に減少することを考えれば、本震後数時間でも被害域の拡がりを判断するのに極めて有効だと思われる。
 断層が大きな拡がりを持つような場合には、その破壊開始点である震央だけでは、的確に被害域を特定できないことが考えられる。その場合でも、余震域の拡がりが判れば、それを被害域とみなして緊急対応することが可能である。もちろん、稠密な震度情報も有効な情報であるが、震災時には通信が途絶して情報が来ない場合も考えられる。この場合でも、震源情報は、地震観測によって確実に得ることができるという特質を備えている。



*2.余震情報

 今回の能登半島地震では、余震情報は一般大衆にどのように伝えられたのだろうか。
 NHKを見る限り、本震後数時間の報道ではあまり触れられていなかったように思う。震源情報が訂正されるまで、本震源は人のいる陸地から離れており深いようなので、有感になる余震は少ないのだろうと考えていた。しかし、本震の情報が正確で、さらに、余震の震源分布が報道されると、より早く的確に被害の全体像を想定することができたであろうと推測される。


◎ 能登半島地震の本震および余震の震央分布図(調査報告会より)

 今後、本震源や余震源分布のような震源情報が図としてすぐさま報道されるようになると、震災後の的確ですばやい防災対応に資するのではなかろうか。もちろん、こうした震源情報を震後の防災対応に有効活用する、防災リテラシーの涵養も忘れてはなるまい。



*3.家屋の倒壊と避難

 先日のNHKの朝の番組(2007年4月18日朝8時30分〜)で、倒壊家屋が多数あるにも関わらず犠牲者が出なかった要因を現地取材・分析していた。これによると、いち早く地震に気づき、すばやく"安全ゾーン"に待避したことが功を奏したようである。
 机の下に潜り込んで難を避けることができたが、家屋倒壊に伴って舞い上がった粉塵で視界が真っ白になり何も見えなくなり、出口も判らなくなった人たちがいた。余震に備えて、すぐに脱出しなければならないが、幸いに地震前に外に出ていた人の声で出口の方向が判り、無事に脱出できたとのことだった。崩壊すれば、少なくともその直後、粉塵で視界が無くなることは考えれば当たり前であるが、意外な盲点かもしれない。方向を見失わない工夫が必要であろう。
 今回の事例は、いち早く地震の発生を知り、すばやく対応することで、被害を軽減できることを示している。もちろん、あらかじめ、それぞれの場所で"安全ゾーン"がどこかを、的確な思考シミュレーションなどを行って認識しておくことが重要となる。
 不意の地震にすばやく対応するための情報装置として、地震警報器アッコ(AcCo)などの利用を薦めたい。例えば、出口付近にこれを置けば、直下の地震でも大きく揺れる前に警報を発して地震を知らせることができる。警報時にはリレー出力を利用して照明などを点灯させ、地震終了時にはブザー音で出口位置を確認するなどして、不意の地震にすばやく対応した後、的確に避難することができるものと期待される。
 また、ストーブなどの火を消そうとして火傷してしまった事例も紹介されていた。昭和47年以降に生産されたものは自動消火装置が義務づけられているし、ガスを各家庭への引き込み口で遮断するマイコンメータ(99.9%以上の普及率とのこと)により、これらの火は自動的に消えるとのこと。火を消そうとするよりも、まず身の安全を確保することが重要であることが強調されていた。大きな揺れの中では思うように動くことができない。できるだけ危険なものから遠ざかるように行動するのが賢明である。火を消す、ガスの元栓を止める、電気のブレーカーを落とす等、地震時にしなければいけないことを、地震警報器などを利用して自動的にできるように対策することが、今後重要となろう。
 なお、この番組では、今回の地震被害を総括する図が示されていたが、震央位置が当初発表された沖合数十kmの位置のままになっていた。



*4.瓦屋根−ガイドライン工法

 瓦がずれたり落下したりしにくい工法、ガイドライン工法、が公開されている。

http://y-kawara.jp/info/img/guideline.pdf

 ガイドライン工法に用いる瓦の形状や施工法は特別なものではなく、全日本瓦工事業連盟に加盟している工事会社であればどこでも実施できるようだ。実大木造震動破壊実験では、このガイドライン工法で屋根が葺かれているとのこと(防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センター・中村いずみさんからの情報)。
 能登半島地域の屋根葺き工法はこれとは別の伝統的な工法で、強風に耐えるため瓦を固定する工法であるが、ガイドライン工法による屋根と同様の効果を発揮している。
 ガイドライン工法などの普及で、瓦の落下被害が確実に減少するものと期待される。



*5.地震動増幅と継続時間

 先日(4月24日)、5学会(土木学会、地盤工学会、地震工学会、建築学会、地震学会)共催の能登半島地震災害調査報告会があった。これによると、古い土蔵や木造家屋はかなりシロアリの被害を受けており、構造物の耐震性が低くなっていたようだ。また、表層地盤の増幅も大きな被害要因であるが、継続時間が短かったため局部的な被害にとどまったと考えられている。
 地滑りや盛土などの被害に関しては、専門家によると予想外に多かったようで、破壊したものとしなかったものを分けた要因を明らかにし今後の教訓を得るためにも、地盤の詳細な調査が望まれるとのことであった。
 一方、地震対策の効果は、住宅は言うに及ばず、埋め立て護岸などにおいても明瞭に認められたようである。
 表層地盤の増幅特性は、常時微動などを用いて、事前に把握することが可能であり、建物の耐震性能も同様に事前調査が可能である。事前調査を行って然るべき補強を行えば、かなりの程度災害を軽減できるものと期待される。
 いずれにせよ、震度6以上の地震動が如何に強烈か、また、破壊に対して共振現象や継続時間の影響が如何に大きいか、等を、さまざまな強震動を震動台で再現したビデオなどを見たり、実際に再現強震動を経験したりして、確認されることをお勧めしたい。


以上



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