- REPORT No.7 - 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震時の地盤変位について


SDR報告20140819


2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震時の地盤変位について


(株)システムアンドデータリサーチ
中村 豊

目 次
 1.はじめに
 2.算定方法
 3.算定された変位軌跡について



1.はじめに

先に表記地震(以後311地震という)による地震動伝播の様子を、リアルタイム震度を用いて動画で示した。この地震動とGPSで明らかにされた地震時の大変位の関係を明らかにするため、リアルタイム震度を算定したのと同じデータセットである加速度波形を用いて、大変形を算出してみた。KiK-netは比較的堅固な地盤に位置しているので、二重積分結果は安定していることが多い。そこで、KiK-netの地中データを中心にして、大変形を算定し、各地点での水平面内の軌跡を描いた。堅固な地盤に設置されたK-NETのデータもいくつか含めている。さらに、計算結果を、時間的な関係が把握しやすいように、地震発生時点(2011年3月11日14時46分23秒)を基準にして動画にまとめてみた。リアルタイム震度の伝播の様子と併せることにより、いわゆる地震の揺れと大変形発生の時間的な関係が把握できるものと期待している。


2.算定方法

地震動の加速度波形を2回積分すると、計算結果は一般に時間とともに発散してしまう。これは、大きな地震入力によって、わずかながら加速度計が回転することによって生じると考えられ、水平動成分に影響が大きく現れる。つまり傾くことによって、水平動成分にシフト加速度が付加される。このシフト加速度の量と発現時間を主要動が終了した後の一回積分により得られた速度波形を直線回帰して算定した。発散の要因には、地震計の回転のほか、何らかの原因による打撃も考えられる。これは、速度波形のシフトとして現れるので、速度波形の代わりに変位波形を用いて、パルス加速度の大きさと発現時間を算定することができる。具体的には、最初にシフト加速度を見積もり、必要であれば、パルス加速度を算定する。パルス加速度が必要な場合は上下動成分に多く、水平動成分については、概ねシフト加速度のみで安定した結果が得られることがわかっている。

この方法で算定した変位波形を精密GPSの結果と比較した例を図1に示す。これは、GEONET釜石における精密な1秒毎のGPS信号を処理して得られた5秒毎の変位波形(以後GPS_PPPと称する:ここでは東北工大の神山 眞 名誉教授による処理結果を利用させていただいている)と、KIK-net釜石(地上、地下)とK-NET釜石の3地点の加速度波形を2回積分した変位波形を比較したものである。それぞれの位置関係は図2に示すとおり、相互に3〜5km離れている。KiK-net釜石の地表は、設置方位が47度時計回りに回転しているとみられるので、回転補正をしたものも算定して比較した。図3に示す軌跡比較図によると、回転を無視すれば、すべてがほぼ同一の軌跡を描き、算定された変位軌跡が妥当なものであることを示唆している。なお、以後に示すKiK-netの地上・地下、K-NETについても回転補正が必要な地点がいくつかあったので、適宜補正を行った上で各地の軌跡を算定した。

図1 釜石におけるGEONET、KiK-net地表地下およびK-NETから導出された変位波形の比較


図2 GEONET釜石、KiK-net釜石およびK-NET釜石の位置関係


図3 釜石におけるGEONET、KiK-net地表地下およびK-NETから導出された変位軌跡の比較



3.算定された変位軌跡について

図4 強震記録の2回積分による水平変位軌跡の分布


こうしてまとめられたものが図4に示す「各地の変位軌跡」である。これをみると、場所によっては5m以上にもなる変位は一様に生じているのではなく、変位し始めから収束するまで複雑な動きを示している。これらの軌跡は、地域毎に類似した形状となっており、地域ごとに異なる軌跡も次第に移り変わっている様子がよくわかる。

ごく大まかに言うと、これらの軌跡は3〜4個の円弧部分からなっているように見える。地震発生から時間を追って、各地の軌跡を描画して動画にしたので参照されたい(上記動画)。これによれば、三陸南の部分では、最初の円弧がほぼ半回転した後に続いて2番目の円弧が大きく引き伸ばされて直線のようになり、これに3番目の円弧が接続している。リアルタイム震度の伝播状況を示す動画を併せてみれば、最初の円弧軌跡が大きな震動に対応していることがわかる。これが収まって次の大きな震動が始まるまでの間に数m以上のほぼ直線的な軌跡が描かれて、最後に大きな地震動に対応すると思われるほぼ円形の軌跡に接続している。 これらの軌跡の回転方向は反時計回りであるが、牡鹿半島の南のあたりで、北側の反時計回りから南側では時計回りに変化している。最初の円弧軌跡が第1震に対応しており、大きな直線的な変位軌跡に続く円形の軌跡が第2震に対応しているものと推測される。福島沖の第3震に対応する変位軌跡は明確に認識できないが、約50秒を隔てて仙台を襲った大きな地震動に対応する軌跡は明確に認識が可能である。最初の大きな震動から2番目の大きな震動の間で、30秒程度の時間をかけて数m変位している。

図5は、リアルタイム震度で示した地震波動伝播の様子と変位の進展状況を示した動画の比較を容易にするために、いくつかの時点で静止画を比較した。第1震が牡鹿半島に到達した50秒付近から20秒毎に190秒まで(ただし第2震が到達した時点約100秒も加えた)の時間におけるリアルタイム震度の分布状況とその時点までの変位の進展状況を図示している。

(50秒:第1震に対応、70秒、90秒)

(100秒:第2震に対応、110秒、130秒:第3震に対応)

(150秒、170秒、190秒)
図5 いくつかの時点のリアルタイム震度の伝播状況と変位軌跡の進展状況の比較


図6は、いくつかの典型的な軌跡を示す地点において、リアルタイム震度や5HzPGAの時系列変化とNS・EW・UD方向の地盤変位を比較したものである。これらの図には、参考として、水平面内の変位軌跡も示した。これらの内、牡鹿のみ地表面測点で、他は地中測点である。 これらをみると、断層が滑り始めた時や固着した部分が滑るとき等に大きな震動が生じ、これらの間の時間では一気に変位していることが伺われる。一気に変位する時の速度は、概ね0.1m/s内外であり、断層のずれ速度として一般に考えられている値の1/10程度になっている。 各地の変位軌跡から対応する部分の時刻を読み取れば、その発生位置を特定することができるかもしれない。変位軌跡に対応する震源特性が導かれれば面白い。折をみて挑戦してみたい。
図6 いくつかのKiK-net・K-NET観測点における変位(東西、南北および上下)、5HzPGA、リアルタイム震度および変位軌跡の比較(久慈北、釜石、唐桑、牡鹿、山元、都路、いわき東、ひたちなか、の8地点)


以上



謝辞とお願い:防災科学技術研究所が運営しているK-NETおよびKiK-netのデータを利用させていただいた。運営に携わる関係者のご努力に深甚の謝意と敬意を表する。計器の設置方向や設置条件は解析の前提条件であり、絶対的に重要である。今後とも、計測されたデータが真に科学的吟味に耐えるものであるように細心の注意を払って維持管理していただくようお願いしたい。

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