- REPORT No.4 - 2011/3/11 東北地方太平洋沖地震 (M9.0)の液状化被害について

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SDR 報告20110617 発信


2011年東北地方太平洋沖地震による東京湾岸地域などでの液状化被害と
1990年前後に計測した常時微動測定結果の比較


SDR/東京工業大学理工学研究科連携教授 中村豊
SDR 齋田淳、佐藤勉

目次
●簡便ではあるが信頼性の高い液状化予測手法の確立に向けて
●地盤の壊れやすさ指標Kgについて
●常時微動計測とデータ解析について
●Kg値算定結果と液状化被害との比較  検証(1)舞浜周辺
●検証(2)大井埠頭周辺
●検証(3)京葉線:西船橋−蘇我間
●検証(4)鹿島線:香取−北鹿島付近間
●検証結果のまとめ



●簡便ではあるが信頼性の高い液状化予測手法の確立に向けて

2011.3.11に発生した東北地方太平洋沖地震は東日本を中心にさまざまな方面に甚大な災害をもたらしました。まさしく不測の事態であるが、不測の事態が出来したときの対応のまずさが露呈した感が否めません。どうしたら的確な対応ができるのでしょうか。柔軟で多様な発想が求められるのは間違いありません。

20年以上前に、当時の運輸省の助成研究の一環で、首都圏JR 沿線の地盤や構造物について100m間隔で常時微動を計測して、固有振動数や増幅倍率を推定しました。また、これとは別に、1989年のロマプリエタ地震の調査で行ったサンフランシスコ湾岸の常時微動調査結果と比較するため東京湾岸の常時微動を計測しました。その後、固有振動数と増幅倍率を使って、地盤や構造物の壊れやすさ指標K値群を提案し、多くの地震被害データを使ってその妥当性を検証して来ています。

ここでは、1990年に計測された常時微動のデータを使って当時推定された固有振動数Fと増幅倍率Aをそのまま使って、地盤の壊れやすさ指標Kg値を算定し、これを液状化調査結果などと比較してみました。その結果、Kg値はこれまでの液状化予測手法とは異なるが、少なくとも、その危険性を的確に把握することができることがわかりました。


●地盤の壊れやすさ指標Kgについて

K値群は、H/V 法などで推測される固有振動数Fと増幅倍率Aと構造物の諸元を使って、地震時に地盤や構造物の着目する部位に生じる歪みγを大まかに推定することを目指した指標です。
その共通した歪みの推定式は次のとおりです。
    γ = K × a
ここに、KはK値、a は地震動基盤加速度を表します。
地盤の場合、
    γ = eAd/h
        = eAa/ω²/h
        = eAa/(2πF)²(4F/Vs)
        = eAa/(2πF)²(4FA/Vb)
        = eA²/F/(π²Vb)a
        = A²/Fe/(π²Vb)a
ここに、e は入力効率、Vs は表層地盤のせん断波速度、Vbは基盤のせん断波速度を表します。
故に、
    γe = β×Kg×a
ここに、
    Kg = A²/F
    β = e/(π²Vb)
日本では概ねVb=600m/sとおけます。入力効率を0.6と仮定すれば、βは約10-6(μ:マイクロストレイン)となります。この時、
    γ0.6= Kg×a
入力効率は震動波形によって変わることが予想されます。パルス的な震動ではその値は小さく設定する必要があると考えられます。つまり大きな入力加速度が必要となるが、継続的な震動では効率は1.0に近づくものと推測されます。今回の地震はこれまで経験したことが無いくらい長い間継続しており、入力効率は0.6ではなく、1.0とすると、βは約1.7となります。すなわち、
    γ1.0= 1.7×Kg×a
以下、Kg値を使って液状化判定を試みます。


●常時微動計測とデータ解析について

ここでの検討に用いる常時微動測定結果は、1990年に計測されたもので、3成分微動計PIC(Portable Intelligent Collector)を用いて、各測点で40.96秒(4096データ)の測定を3回繰り返し、各測定の中から人工ノイズが少ないと思われる部分10.24秒を取り出して、フーリエスペクトルを算定しました。水平2方向と上下方向のスペクトル比を各測定毎に算定して、3回を平均して、各水平方向のH/Vスペクトル比としています。このスペクトル比からピーク周波数(固有振動数F)とピーク値(増幅倍率A)を読み取っています。ここまでの作業は1990年に行われ、報告されています。ここでは、この時に推定された固有振動数と増幅倍率を使ってKg値を算出し、近くの地表面で観測された加速度を使って予測した発生歪を実際の液状化状況と対比させながら、液状化判定の妥当性を検証します。


●Kg値算定結果と液状化被害との比較
検証(1)舞浜周辺
この地域の埋立地の四隅(MH01〜MH04)で微動を計測しています。その結果は、第8回日本地震工学シンポジウム(1990)で報告しています<常時微動による東京湾大井埠頭周辺地盤の地震動特性の推定(中村・滝沢1990>。ここでは、そこで推定された固有振動数と増幅倍率を使ってKg値を推定しました。結果は図に示すとおり、MH01〜MH04に対して、Kg値は9.8〜34.9となっています。K-NET浦安の記録を使って算定した5HzPGAは164Galです。増幅倍率は約4倍と見積もられるので、基盤加速度は約41Galとなります。今回の地震がこれまでよりかなり長い継続時間であったことを考慮して、定義の際に導入した入力効率を60%ではなく100%として以後の検討を進めます。具体的には、入力加速度を41/0.6=68Galとして、表層地盤に生じるせん断ひずみを大まかに推定します。結果は、MH01〜MH04に対して、1050μ、1100μ、700μおよび2300μとなります。1000μ以上のひずみで地盤が液状化するとすれば、MH01とMH02は液状化が予想され、MH03は液状化しない可能性が大きく、MH04はもっとも激しく液状化すると判断されます。東京電機大学の安田先生らの調査と比較すれば、Kg値による判定結果は妥当と考えられます。

●検証(2)大井埠頭周辺
ここでは、大森駅西側の公園から大井コンテナ埠頭の南に隣接する埠頭までをEW側線とし、大井埠頭の埋立地のほぼ中心に南北側線をとって、比較的多数の地点で微動を計測しました。その結果は以下に報告しましたが、報告したデータを基にKg値の分布を算定して下図に示します。これによれば、Kg 値が15を上回る大きな値を示すのは、岸壁付近と運動公園付近になっています。
東京工大の時松先生のグループの調査(下図)によれば、大井埠頭の岸壁付近で液状化の発生が確認されています。内陸部の運動公園については軟式野球場のD面が地震後液状化被害のためしばらく利用できなかった事実があります。この他の地点での液状化発生は確認されていません。Kg値は岸壁付近(23以上)と運動公園周辺(15以上)でやや大きくなる他は、概ね10 程度以下の小さな値であり基盤加速度100Gal未満の地震動程度では液状化しないと推測されます。この地域でもKg値による液状化判定は概ね妥当な結果を与えていると判断されます。


●検証(3)京葉線:西船橋−蘇我間
ここでは、西船橋駅から蘇我駅までの約22.5kmについて、100m間隔で鉄道構造物と沿線地盤の常時微動を同時に計測しています。下図は推定された沿線地盤の固有振動数と増幅倍率およびKg値の分布を沿線に沿って示したものです。これらの横軸は西船橋駅からのキロ程です。下図をみると、振動数も増幅倍率も場所により大きく変動していることがわかります。
この地域については東京電機大学の安田進先生や千葉県環境研究センターが公開している資料があります。基本的に鉄道に沿った調査ではないことに留意しながら、ここでは、Kg値の分布図に他機関による調査結果を以下のように重ねて表示しました。安田先生による液状化部分と変状が認められない部分をそれぞれ濃いピンク色と水色で示し、千葉県環境研究センターによる変状部分を薄いピンク色で示しました。さらに、7km以後については、地震後に撮影/公開されたGoogleEarthによる衛星写真があるので、地震前後の衛星写真を比較するなどして変状があると思われる部分を紫色で示しました。
これらをKg値の分布と比較してみると、概ね良い対応が見られます。変状が報告されていないところや変状がないとされるところでは、10(μstrain/Gal、以下単位省略)以下の小さなKg 値となっており、変状があるところや変状の可能性があるところは10以上の大きなKg値となっています。つまり、変状の有無は概ねKg値が10を境にしていると判断されます。付近で観測された地震動は概ね200Gal で増幅倍率は概ね4程度です。したがって、基盤の加速度は50Gal程度となります。継続時間の長さ考慮して入力効率を0.6ではなく1.0とすれば、基盤加速度を1.7倍するのと等価で83Galとなります。つまり、Kg値>12で約1000μの歪みの発生が推測されることになり、 Kg値による液状化判定はほぼ妥当であると判断されます。



●検証(4)鹿島線:香取−北鹿島付近間
この線区も1990 年に、香取駅から北鹿島付近(現在の鹿島サッカースタジアム駅付近)までを測定しています。下図は推定された沿線地盤の固有振動数と増幅倍率およびKg値の分布を沿線に沿って示したものです。これらの横軸は香取駅からのキロ程となっています。
京葉線と異なり、他機関による調査結果がないので、GoogleEarthによる3/29撮影の衛星写真に基づいて、何らかの変状が認められた地点をKg値の分布図にピンク色で示しました。盛土の被害と判断されるものについては茶色で示しました。これらは現地調査に基づくものではないので、参考程度にしか過ぎませんが、Kg値の大小と変状の有無が対応しているようにみえます。変状発生のしきい値は概ね10よりやや大きい程度と見積もられます。

●検証結果のまとめ
すでに提案している常時微動計測結果に基づく液状化判定手法を、1990年代に実施した常時微動計測・分析結果に適用して、今回の地震による関東地域における液状化被害と比較しました。この結果、概ねKg>10の箇所で変状が発生したことが確認されました。このKg値では、今回観測された入力地震動によって、表層地盤に概ね1000μ以上のせん断歪が生じると推測され、液状化に到ってもおかしくありません。このように、今回の地震でも、事前の常時微動測定結果に基づいて、想定地震動で液状化が発生するかどうかが的確に判断できることが確認されました。ここで検証した手法は、常時微動を測定するだけの簡易な手法であり、数多くの地点を調査することが可能です。本手法で抽出した危険地域について、従来手法で詳細調査を行って、合理的な対策工事を実施することが可能となります。また、対策工前後で計測することにより、対策工の効果をチェックすることもできます。
本手法が液状化対策に資することができれば幸いです。


以上



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