2005年8月16日 宮城県沖の地震

SDR20050829#


検証:2005年8月16日11時16分頃の宮城県沖の地震に対する情報発信


株式会社 システムアンドデータリサーチ




簡単な説明:

@東北新幹線のコンパクトユレダスのP波早期警報は41秒頃に発信され、直ちに白石蔵王-二戸間の全列車を緊急停止(推定)。緊急地震速報が発信される4秒前、受信される6-8秒前。

A気象庁の緊急地震速報(第一報)は45.1秒に発信され、47秒〜50秒に受信されている。

B震源に近い牡鹿・石巻では緊急地震速報より「その場警報(オンサイト警報)」の方が圧倒的に早く、仙台付近でも「その場警報」と同程度。

C簡単なAcCo(アッコ)警報でもP波警報が可能。

DSI警報はS波到来とほとんど同時で、迅速警報には向いていない。


今回の地震でわかったことは、大掛かりな気象庁システムを運用して発信された緊急地震速報で確保できた先行時間程度ならば、仙台付近であっても、その場で観測して警報を発するオンサイト警報でも確保できる、ということです。オンサイト警報の利点は、@直下地震にもある程度有効、A情報不達の心配がない、B見逃し・誤動作が少ない、などです。アッコのような簡単な警報地震計を用いたオンサイト警報の欠点は早く警報しようとすると、過剰警報を覚悟しなければならないことですが、一年に数回以下と多くはありません。フレックルを用いれば過剰警報の心配はほとんどなくなります。


ここでは、気象庁の緊急地震速報と東北新幹線のコンパクトユレダスの動作状況、フレックルやアッコなどの警報シミュレーション結果などを比較検討します。地震警報は迅速性が最重要なので、ここでは警報または情報の発信時または到着時を比較します。

結論を先に言えば以下のようになります。 今回の地震に対して、大掛かりな気象庁システムを運用して発信された緊急地震速報で確保できた先行時間程度ならば、仙台付近であっても、その場で観測して警報を発するオンサイト警報でも確保できます。

オンサイト警報の利点は、@直下地震にもある程度有効、A情報不達の心配がない、B見逃し・誤動作が少ない、などです。アッコのような簡単な警報地震計を用いたオンサイト警報の欠点は早く警報しようとすると、過剰警報を覚悟しなければならないことですが、一年に数回以下です。フレックルを用いれば過剰警報の心配はほとんどありません。

以下やや詳細に説明します。

−目次−
ここで取り上げる警報の種類
シミュレーション結果
@前線警報
Aオンサイト警報
フレックル警報のメリット

ここで取り上げる警報の種類

比較したのは以下の5種です。
@フレックル(FREQL、P波警報):リアルタイム震度RIと加速度を計測してP波警報(P波検知後1秒以下)、加速度警報、RI警報(いずれも基準値超過の瞬間)のほか、地震諸元を推定してP波警報(P波検知後1秒)
Aコンパクトユレダス警報:加害強度DIと5HzPGAを計測してP波警報(P波検知後1秒)と40Gal警報(超過の瞬間)
B気象庁の緊急地震速報:P波部分で地震諸元を推定、予測震度と到着時刻を通報(第一報はP波検知後通常4−5秒、時には7秒以上)
CAcCo警報:5HzPGAとRIを計測して警報(基準値超過の瞬間)、ここでは10Gal警報を取り上げます
DSI警報:スペクトル強度SI値を計測してSI警報(基準値超過の瞬間)、ここでは6kine警報を取り上げます

DIとRIは同じ地震動のパワーに関係したもので、RI = DI−0.6 の関係があります。 コンパクトユレダスは概ねDI=3.0で警報を発します。フレックルの警報レベルとしてRI=1および2を取り上げます。また、フレックルの地震諸元推定に基づく警報はここでは取り上げません。

コンパクトユレダスの動作状況は公表されていませんが、早期警報により緊急停止したとの報道がありました。金華山検知点が動作して、仙台を中心に白石蔵王−二戸間へのき電を緊急停止したということなので、金華山検知点の近傍にあるK-NET検知点の牡鹿をはじめ、石巻、古川、仙台、岩沼の波形データを用いてシミュレーションを行い警報発信時間を比較しました。

シミュレーション結果

シミュレーション結果を図に示します。これは各検知点の水平変位波形(東西方向と南北方向、記録された加速度波形を2回積分したもの)を縦方向に距離をとり、横方向に時間をとって、P波、S波の伝播状況がわかるように配置したものです。緊急地震速報については気象庁の発表結果を示しています。また、各地のP波到来時間、各種警報時間、S波到来時間、ピーク発生時間などを表にしました。これらの時間は46分00秒からの経過時間で示しています。

@前線警報

これによると、2005年8月16日午前11時46分25.7秒(気象庁による)に発生した地震を、東北新幹線の金華山検知点にあるコンパクトユレダスは約13秒後の38.3秒に検知し、41秒頃にP波警報を発しています。この警報で、主要動(ピーク)まで22秒(仙台)以上の先行時間を持って白石蔵王−二戸間の全列車が緊急停止動作に入っています。気象庁の第一報が発信される45.1秒の約4秒前のことです。コンパクトユレダスの警報情報は専用回線で伝えられるため時間遅れはほとんどありませんが、衛星通信を経由して送信される緊急地震速報がユーザーに伝達されたのは、報道によれば、さらに数秒を要したものと思われます。このため、仙台のユーザーが確保できた先行時間は、気象庁が発表している第一報発信から主要動まで(S波到来までかピーク発生までかは不明)の時間16秒より少ない、14秒や11秒となっています。つまり緊急地震速報をユーザーが受信したのは47秒〜50秒ということになります。

一方、フレックルが牡鹿に置かれていれば、38.6秒〜40.2秒に早期P波警報が発せられ、主要動(ピーク)までの先行時間は仙台で23秒〜24秒確保されたと推測されます。現在より、1秒〜2秒程度早い警報となります。また、コンパクトユレダスに置き換わる前の警報基準5HzPGA40Galの場合、46.7秒で警報したと推測され、現在より、5秒以上警報は遅かったと考えられます。すなわち、コンパクトユレダスに変えたことにより、5秒以上多くの先行時間を確保することができたことになります。なお、SI警報はこの40Gal警報よりさらに0.6秒遅く、現状より6秒も先行時間が短くなると推測されます。

Aオンサイト警報

次にオンサイト警報によって確保される各検知点での主要動(ピーク)までの先行時間を見積もります。最も震源に近い牡鹿でも、フレックルのP波警報で8秒〜10秒、アッコ10Gal警報で8秒確保することができ、主要動到来までに余裕をもって警報できます。これらの地点では緊急地震速報を受信する前または同時に主要動が到来することになります。今回の地震の場合、フレックルのP波警報時刻と緊急地震速報の第一報発信時刻がほぼ同時になるのは、震央距離115km程度の地点であり、ここまでの範囲ではフレックル警報のほうが早いのです。受信までを考えれば、より広い範囲でフレックル警報のほうが早いことになります。仙台(震央距離129km)でも、フレックルのP警報では15〜17秒、アッコ10Gal警報では14秒の先行時間が確保できます。つまり、仙台で地震を観測して警報しても、震源に近いところで地震を検知した緊急地震速報を受信するのと同じくらいの先行時間を確保することができるのです。ただし、アッコ10Gal警報の場合一年に数回の過剰警報が生じると見込まれます。しかし、緊急地震速報には誤報があること、直下地震に対しては主要動より緊急地震速報の方が遅れること、を考えると、簡便なアッコ警報の方が確実で信頼性が高く、実用性が高いと判断されます。また、従来の警報地震計は違法無線などの強力な電磁波で誤動作することがありますが、アッコは誤動作しにくいことが確認されています。

フレックル警報のメリット

なお、フレックルには、雷に対する誤警報を抑止する機能や、小さな地震の後に続いて大きな地震動が発生しても的確にP波警報する機能が付加されています。すなわち、緊急地震速報が持つ問題点(直下地震には対応できない、雷で誤警報する、大きな地震の前に小さな地震があると警報できない、など)はフレックルではすでに解消されているのです。ロサンゼルスに大被害を与えたノースリッジ地震や阪神淡路大震災をもたらした兵庫県南部地震などの地震では直前数秒前に小さな地震が発生したことが知られています。このように、大きな地震の前に小さな地震があるのはよくある現象であることを考えると、大きな地震の前に小さな地震が発生すると情報が発信できなくなるという緊急地震速報の欠陥は致命的であるように思います。

こうした欠陥がなかったとしても、緊急地震速報を生み出す巨大なシステムが大地震の際に100%正常に動作することは難しいと思われます。全域ではないにしても情報不達などが発生するかもしれないことを考えれば、緊急地震速報だけでは心許ないのではないでしょうか。バックアップシステムが必要となります。オンサイトの警報システムを備えることをお勧めする次第です。




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