ご報告


2003.08.29

2003年5月26日に発生した三陸南地震に対するコンパクトユレダスの動作状況に関して

(株)システムアンドデータリサーチ

さる2003年5月26日の夕刻に三陸南で発生したマグニチュードM7.0の地震は、海岸線や新幹線沿線に置かれたコンパクトユレダスが有効に機能した最初の本格的な事例です。もちろん、以前にも何度か沿線のコンパクトユレダスがP波でいち早く警報を出して安全を確保する働きをしています。しかし、三陸南の地震は東北新幹線が開業して以来はじめての構造物が損傷するような大きな地震であり、こうした地震に備えて設置された海岸線や新幹線沿線のコンパクトユレダスがほぼ期待どおりの働きをしたことは特筆すべきことです。

気象庁が開発した計測震度計のような比較的簡単なシステムでも、先月の宮城県北部で発生した大きな地震動を受けて記録や表示がおかしくなっていることをみればわかるように、大きな地震動の中で所期の機能を発揮させることは簡単ではありません。それだけに大きな地震動の中でもきちんと仕事をしたコンパクトユレダスは、弊社SDRとしても大いに誇れる製品です。コンパクトユレダスをいち早く採用していただいた東日本旅客鉄道株式会社様にとっても、三陸南の地震でその有効性が実証されたことで、先進的な安全対策を進める企業イメージをアピールできたのではないでしょうか。

2003年8月18日の朝、朝日新聞の朝刊に地震特集記事を見つけた私は、こういうことを考えながら、期待に胸躍らせて目を通しました。しかし、そこには、三陸南沖の地震では新幹線を止めたシステムとして、コンパクトユレダスではなく、将来のライバルシステムの名前が明記されているではありませんか。ショックで言葉もありません。

ライバルシステムは大地震計メーカーAが製作を担当して気象庁などが開発を進めている早期検知システムで、まだ研究の域を出ていないシステムと聞いています。新幹線とは関係のないシステム(九州新幹線で使われるといった情報もあるようですが)で、しかもまだ機能試験中のはずです。どこまで機能が実現しているかも不明で、ただ当初のスケジュールどおりに開発が進んでいるらしいという噂しかありません。関係者には当然何らかの説明をしているのでしょうが、実際の地震に対する動作状況などは全く情報がなく、第三者が評価を行うことは難しい状況です。税金を使った開発にしては情報開示が少なすぎる気がします。多くの人々の生命を預かる新幹線システムが実績を重視するのは当然です。各種機能試験を研究的に実施しただけで、実際の地震観測の経験がないシステムをいきなり新幹線の警報システムに採用するなどということがもしあれば、それは社会的な問題となるでしょう。気象庁などによる開発システムの母体との情報もあるA社製の警報地震計は、東北新幹線の盛岡−八戸間の変電所などに設置されています。これはいわゆるS波警報方式と聞いていますが、今回の地震できちんと警報は出たのか?、コンパクトユレダスのP波警報とくらべてどのくらい遅れたのか?、など動作状況の正確な情報開示が待たれます。

朝日新聞の間違い記事を読んで、新幹線をいち早く止めるのはユレダスかコンパクトユレダスだろう、どうなっているのか?、と驚いて連絡してくださった方もいらっしゃいます。もちろん、朝日新聞社には直ちに抗議しました。しかし、担当デスクはなかなか間違いを認めません。記事を気象庁など関係機関に事前ににみてもらったが、異論や間違いの指摘はなかった、というのです。気象庁にとっては歓迎すべき(?)ミスなので、たとえ気象庁から異論が無くても理解できます。無論通常はありえないことですが。しかし、コンパクトユレダスをいち早く採用した機関に異論がなかったというのは信じられません。自分の先見性を否定するものだからです。さらに数回にわたる長時間の議論を続けた後、ようやく訂正に応じてもらったのですが、訂正記事をみて驚倒しました。いわく、「東北新幹線を停車させたシステムの名称が「……」とあるのは「地震早期検知システム」の誤りでした。「……」は気象庁などが実用化をめざしている地震の早期検知・情報提供システムです。」しかし、これでは訂正記事とは言えません。

訂正記事のおかしさは、例えば、「凸凹会館をデザインしたのは○野□男です。」という間違い記事の訂正記事が、「凸凹会館をデザインした人の名前が「○野□男」とあるのは「デザイナー」の間違いでした。なお、「○野□男」はすぐれた建築家をめざしているデザイナーです。」とすればよくわかります。正しいデザイナーの名前はどこにもない!!

朝日新聞社の訂正記事はこれと同じで、実際に動作した地震早期検知システムの名称「コンパクトユレダス」が全く出てきません。実績のない未完成の競合システムの名前は何度も明記され、実際の大地震に対して迅速に警報を出すことが実証されたコンパクトユレダスの名前は伏せられるという事態が、なぜ発生するのか不思議です。

再度の抗議に対する朝日新聞社の説明では、担当記者が改めてシステム名を問い合わせた結果、「地震早期検知システム」という答えが得られたからとのこと。到底信じられる話ではありませんが、仮にそうであっても朝日新聞社は上記訂正記事から下線部を取り除いたものにすべきだったのではないでしょうか。製品名を、概念を表す言葉で置き換える不自然さは残りますが、競合システムがさらに印象づけられるのは回避できます。せめてこの程度の配慮はして欲しかった。個別システム名を出したくなければ終始そうすべきです。特定のシステム名だけが忌避されるのはフェアではありません。

東北新幹線にコンパクトユレダスが使われているのは公知です。それをことさらに伏せた今回の出来事は、情報操作の実態を垣間見せるもので気が滅入ります。いつの間にかいつか来た道を歩いていた、とならないよう注意したいものです。

以上




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