ご報告

2008.7.16 SDR
2008.8.2 改訂


岩手・宮城内陸地震などの地震に関連して


中村 豊
(株)システムアンドデータリサーチ代表
東京工大大学院総理工連携教授


目次

1.地震後の初動対応
2.緊急地震速報の誤報問題が多発している!




1.地震後の初動対応

 岩手・宮城内陸地震では、緊急地震速報がテレビで流されたため、震源から遠く離れた地域では、岩手・宮城内陸地震をほぼリアルタイムでモニターできたのではないか。新しい体験に興奮した人も多いだろう。しかし、本当に必要な震央地域には間に合わず、遠く離れた、まず被害が発生しないであろうところにしか間に合わないというのでは、本来の目的である防災情報の意味がほとんどない。という問題はさておき、地震後、いつものようにNHKなどのテレビ中継をモニターしていて感じたことは、防災機関や報道機関の初動対応が迅速であったことである。これまでの経験が活かされたものであろう。ただ、残念なことに、災害発生地域を特定するのに手間取り、午前8時43分という比較的早い時間に発生した地震で、初動対応も速かったにもかかわらず、日が暮れるまでに被害の全容をつかみきることはできなかった。NHKや民放各社によって派遣されたヘリコプターは被災現場を求めて飛び回ったが、どのヘリコプターも同じようなところを撮影している。一社が崖崩れを見つけると、そこに多くのヘリコプターが集結して旋回し、報道している。報道映像に他社のヘリコプターが映り込む始末である。これでは多くのヘリコプターを飛ばす意味はない。さすがに防災ヘリコプターは、探査地域を逐次指示されながら被害把握に努めたようであるが、それでも的確に被災地域が絞り込めていないことによるもたつきがあったのは否めない。

 防災ヘリコプターはもちろん、報道ヘリコプターも活用して被災地を迅速に特定することを考える必要があるのではないだろうか。その際、大きく被災している可能性があるのは、震央を中心にしたある範囲内であり、この範囲は地震規模(マグニチュード)によって規定される。M7程度であれば、通常30km程度以内である。そこで、被害の可能性がある範囲を、震央を中心にして探索することになるが、山岳地帯であれば、大きな河川に沿って下流から上流を探索すれば被害状況を把握できるであろうし、都市内であれば幹線道路に沿って探索すればいいのではないかと思う。このとき、川筋ごとに、また幹線道路ごとに、各報道機関が分担して探索し情報を共有するようにすれば被害の全容把握が迅速にできると思われる。具体的な分担方法についてはあらかじめ協議しておく必要があるだろう。探索地域を策定するにあたって非常に重要になるのが、被災した可能性がある地域を絞り込むのに有効な震源情報である。すなわち、本震や余震の震央位置、震源深さおよびマグニチュードを正確にかつ詳細に把握できれば、被災地をも迅速かつ的確に推測することができるのである。正確で詳細な震源情報が地震後遅くとも数分後に配信されれば、これに基づいて防災ヘリコプターや報道ヘリコプターが協力して被災地を特定し、優先順位に従って救援活動を迅速に開始できるようになると期待される。

 このためにも、気象庁ほか正確な震源情報を発信できる能力を持った機関・大学などが遅滞なく正確で詳細な震源情報(本震のみならず、余震の発生状況も含めて)を迅速に発信することができるように、法整備(気象業務法の見直しは必須である)と体制づくりが欠かせないと考える。



2.緊急地震速報の誤報問題が多発している!

 最近、緊急地震速報絡みの失態が続いている。
 2008年7月14日夜の地震で発信した緊急地震速報警報の誤報に関連して、気象庁には謝罪パフォーマンスではなく、何が起きたのかを正確に公表することを望む。誤情報発信の影響は調べようがないなどと無責任に開き直るのではなく、発生した現象を事実とともに明らかにしてほしい。少なくとも報道されている情報から事態の全体像をつかむことはできないので、問題の真の所在が不明である。報道によると、当該地点の地震計の警報トリガー条件の設定ミスとのことである。そして、全国200箇所に地震計を調査した結果、ほかの地点については問題がなかったことがすぐさま報道されていた。点検方法がシステム化されているのかもしれないが、それにしては5年以上に亘って点検せず見逃されていたこととは整合せず不思議である。もっと具体的な説明がほしい。

 今回の誤報は多くの鉄道会社に伝送されたにもかかわらず、実際に警報となったのは都営地下鉄だけだったというのも不思議である。誤警報であっても、それが警報として伝わらなかった事実は重大である。何らかの誤報対策の結果なのか、情報伝達経路の問題なのか、いずれにしても警報が伝わらなかった本当の理由を具体的に知りたい。緊急地震速報に関連している気象庁、NPO法人および情報配信会社はきとんとした納得いく説明をして、総合的な再発防止策を提示すべきである。これらの機関が普及活動ばかりに力を入れているのはおかしい。緊急地震速報の情報配信にかかわる委員会で、これらの機関には、緊急地震速報システムの構築に投入された経費(直接・間接にかかわらず税金が原資のもの)の詳細と収支をきちんと報告することと、緊急地震速報の成功例・失敗例にかかわらず、その具体的経緯を詳細に調査分析して公表することを約束していただいたと理解している。今回の事態も、一般国民に対して納得できる説明を行う必要があると思う。それもあまり時をおかずにお願いしたい。

 ところで、最近の報道によると、内陸地震のような直下地震に対する緊急地震速報の少なくとも第一報は単なるトリガー警報であるようだ。もちろんそうでない機能ももっていると思うが、震源域では最初に発信されるのは100Galをトリガー振幅とするトリガー警報情報のようである。この情報に付随する震源情報は、当該検知点の位置を震央とし、深さ10kmを仮定して算定される推定マグニチュード、であるようだ。そして、報道から判断すれば、気象庁システムを導入しているJR東日本の新幹線ではトリガー振幅を100Galではなく、40Galにしていると思われる。岩手・宮城内陸地震でも、JR東日本の新築館地震計が40Galを検知して大宮−八戸間を一斉に止めている。昨年2007年3月の能登半島地震以降の大きな地震で新幹線全線が停止する事態が続いているのもこの機能に起因するものかもしれない。しかし、これではP波初動ではなくS波主要動でトリガー警報発信する可能性がかなりある。また、安全性と利便性を両立させるために、被害が予想されるところだけに的確に警報するということもできない。なんらかの対策をしていると思われるが、緊急地震速報について技術的に正確な仕様が公表されていないため、その詳細は不明である。緊急地震速報は税金で構築されたものであるから詳細な技術情報を公表すべきであろうし、新幹線は公共性が高いのだから、問題が発覚する度に情報を小出しにするのではなく、使用する警報機器については動作原理とともに警報条件くらいは公表すべきではなかろうか。また、JR東日本などは、新潟県中越地震などで実績をもつ地震警報機器を、警報を速めることを理由に、気象庁方式に変更しているが、「岩手宮城内陸地震に際して考えたこと §8. 新幹線の警報システムの動作状況」で指摘したように実際にはかなり遅くなってしまっている。利用者の安全にかかわる重大な問題なのでこの点も説明が必要だろう。


以上



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